麗雪神話~炎の美青年~
ルラインの目が届かなくなったあたりで、セレイアはあまりの恥ずかしさに穴があったら入りたくなった。

な、な、なにが「お兄ちゃん、この人、こわ~い」だ。

「人生の汚点だわ。
二度と、二度とやりたくない…」

セレイアが半ば独り言のようにして呟くと、ディセルがにこにこしながら言った。

「そんなことないよ。とってもかわいかった。
もう一度やってほしいくらいだよ」

「か、かわい……っ」

セレイアはいろんな羞恥で赤面した。

その美貌でさらりとそういうことを言わないでほしい。

心臓に悪いではないか。

何はともあれ二人のために国境の門は開いた。

その先には桟橋に渡し船が幾艙(いくそう)も並んでいた。

「私たち、船に乗るのね…」

きらめく水面を映したセレイアの瞳がいつもよりも青い。

「うん」

この川を渡れば、未知の大地が待っている。

セレイアは知らなかった。

この時、ディセルがセレイアの手を握ろうとして、慌ててやめたことを。

ディセルがそうしていつも、距離を置くようにしていることも。

セレイアはただこう思っていた。

ディセルが天上界に帰る方法を、絶対みつけてあげないと、と。

その一方でそれが意味する別れにも気が付いていたが、今はまだ…そのことについて深く考えられなかった。

ずっと、ずっと、こうして一緒に旅をしていくのだと、そんな気がしていた。
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