麗雪神話~炎の美青年~
ヴァイパの一族である風の一族アル=イーオウに、一人の女性がいた。

名はアーシャ。

赤金色の髪、青い瞳、象牙の肌。

絶世の、とつけたくなるような、まれにみる美女であった。

彼女の美しさは外見だけではなかった。

春風のごとき優しく穏やかな性格。おっとりとした風情で、たおやかで可憐、家事も得意とあって、年頃の男たちの憧れの的だったという。

その彼女には生まれた時から婚約者がいた。

それがヴァイパの父イーオウだった。

幼馴染であった二人は、仲が良く、共に助け合いながら成長していった。

しかし、その婚約を疎ましく思う若者は少なくなかった。

アヴァの父リスパと、ビッチィの父カゼルも、アーシャを欲しいと思い、イーオウとの婚約を認めていなかった。
その頃から部族間の仲には亀裂が入りはじめていた。

決定的となったのは、アーシャが16歳となり、ついに結婚かと話が動き出した時だ。

リスパとカゼルは、イーオウに決闘を申込み、勝った者がアーシャを得るという条件をつきつけた。決闘と言っても、正々堂々としたものからはかけ離れていた。

互いに暗殺者を送り合い、皆邪魔者の命を奪おうと画策したのだ。

そんな折、アーシャはある出会いを経験していた。

火の部族の長アル=ハルとの出会い。

アーシャはハルに恋をした。仲の良いイーオウへの感情は恋ではなく、家族に向けるものであったのだ。そしてハルも、アーシャを心から愛した。

三人の族長が血みどろの争いを繰り広げている間に、アーシャはハルの子ブレイズを身ごもった。

争っていた三人がこれを知り、どれだけハルを憎んだことか。

アーシャは結局、ハルの妻となった。

そしてそのことで、四つの部族は決定的に敵同士となってしまったのだ。
< 134 / 176 >

この作品をシェア

pagetop