麗雪神話~炎の美青年~
(凍らせて動きを止める…ことはできないか。素早すぎる、まずいな)

ディセルは一瞬の判断で、自らの周囲に吹雪を巻き起こした。

風がうなり、白い花弁が激しく舞い上がる。

ディセルの姿はこれで完全に見えなくなったはずだ。

その隙にディセルはカマキリから逃れ、路地裏へと入り込んだ。

(今は作戦を考える時間が欲しい)

カマキリが見失ったディセルを見つけ出すまで、少しは時間稼ぎになるだろう。

さて、どうしたものか……。

その時、背後から人の気配を感じた。

それはただの気配ではない。

強い“殺気”だ。

そう理解した瞬間、ディセルはほぼ反射で、体をひねっていた。

そうでなければ死んでいた。

短剣で背中から心臓を一突きにされて。

「おや、よくかわしたね」

殺気に不似合いな、穏やかな声が耳に届く。

「―誰だっ!?」
< 155 / 176 >

この作品をシェア

pagetop