麗雪神話~炎の美青年~
最後に小柄な少年が現れ、壁際に両手を広げて立つ。

何をするのか察したセレイアは、思わず声をあげた。

「やめて! 危ないわ!」

なんと、少年を的代わりにナイフを投げようというのだ。

しかし彼女の警告の声は客たちの喧騒に掻き消えてしまった。

…そして。

青年がナイフを続けざまに放った。

当たればただでは済まない。

セレイアは思わず手で顔を覆ったのだが……。

客たちの喝さいがより大きくなったので、目を開けると、

ナイフはすべて少年の体ぎりぎりのところに突き立っていた。

ナイフは髪の毛一筋も、少年を傷つけなかったのだ。

セレイアはぽかんと口を開けた。

「なんて腕前……」

青年と的役の少年が喝采を浴びながら退場しても、セレイアはまだ衝撃が冷めやらなかった。

「いくら上手でも、人に向かって投げるなんて、感心しないな」

「私もそう思う。心臓が止まるかと思った」

二人は詰めていた息を吐き出し、食事に戻る。

そして二人の食事が終わる頃だった。

何者かがセレイアの肩を叩いたのは。
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