麗雪神話~炎の美青年~
川の下流では、ディセルが洗濯板とたらいを水に浸して、洗濯にいそしんでいた。

ごしごしとやるたびに、絹糸のような純銀の髪がさらさらと揺れる。

トリステアの川の水は、とてもきれいだが年中とても冷たい。

だから洗濯はディセルが受け持つことにしたのだ。記憶喪失である彼にとって慣れない作業であることに間違いはないが、彼はセレイアの負担を少しでも軽くしてあげたかったのだった。

それにセレイアの衣服を手にできることは、なんだか単純に嬉しい。

何を隠そうこのディセル、旅の仲間の少女セレイアに片思い中なのである。

彼の正体は人間ではなく、雪の神、スノーティアスであるというのに。

その想いは正体がわかる前に芽生えたものであったが、それでも型破りであることは否めない。神が人間を愛するなど。ディセル本人でさえ信じられないが、確かにその想いは彼の胸に息づいていた。

無事洗濯と魚とりを終えた二人は、雪深い林の中につくったたき火の前に集合し、早い夕食にすることにした。プミラは一足先に好物の砂糖菓子をもらい、きゅうきゅう鳴いてご満悦だ。

セレイアの故国であり、二人が出会った場所である、神聖王国トリステアの王都を出て一週間。外に出たことすらろくにない二人にとって、旅は慣れないことの連続だった。

火を起こすのも、その火で料理をすることもそうだ。

ああでもないこうでもないとやっているうちに、鍋にひどい焦げができたり、塩を入れすぎてしょっぱすぎるしろものが出来上がったり。

今日も今日とてセレイアがとった魚は半分生焼けで、半分焦げた状態になってしまった。

けれど他愛ない会話をしながら二人で食べる食事はおいしかった。

「俺の理解だと、世界はあの星空と同じようにできていて、太陽の周りをまわっている、っていうかんじなんだけど」

「星空や太陽がまわっているんじゃなく? それはずいぶん大胆な考えね」

「一見するとそう見えるけれどね。実はそうではなくて…っていう理解なんだ。信じない?」

「ふふ、神様の言うことだもの、信じるわ」

「今更神様扱いはよしてよセレイア」

ディセルは何も知らないようでいて、セレイアの想像を絶することを当たり前のように「知って」いる。そういう話を聞くのは、セレイアにとってとても勉強になることだった。
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