麗雪神話~炎の美青年~
それもそのはず、アル=ハルの息子ブレイズが、きのう酒場でナイフ投げを披露していた男そのものだったのだ。
ヴァルクスのことを思わせぶりに聞いてきた謎の人物。

―まさか彼が、族長の息子だったなんて…!

しかし、当のブレイズはセレイアたちの反応を見ても不思議そうに首を傾げるだけだった。

「お客様…ですか? 父上」

声は同じだが、発声が違う。

なんというか、語尾がやさしい。きのうとは別人のように。

「ブレイズ、彼らはわたしの客人だ。霧から街を守ってくれてな。たいそう腕が立つぞ。うん? セレイア殿、ディセル殿、どうかされましたか?」

「え、ええと、あの…」

二人が気まずい視線を交わしていると、ブレイズが恥ずかしそうにうつむきもじもじしながら口を開いた。

「お客人、ですか…。
ええと、はじめてお目にかかります。
僕は族長の息子でブレイズといいます」

「へ…? は、はじめて…?」

嘘だと叫びたい。

けれどブレイズの言葉には裏がありそうではなく、本当に素直に発言しているように見える。

これはいったいどういうことだろう。

…よく似た、別人…?

それにしては似過ぎている。
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