麗雪神話~炎の美青年~
気配を殺して、彼女の寝顔をのぞきこむ。

柔らかそうな長い金色の髪。整った眉から鼻梁の線。長い睫毛が白い頬に影を落としている。ディセルはそのすべてを愛おしいと思いながら、しばし息を詰めてみつめた。

そうしているうちに、こらえがたい衝動がわきおこった。

―頬にキスしたい。

できるわけがない。わかっている。だが、そのすべらかな肌に、触れてみたいのだ。

―できるわけがない。

そう、彼女はディセルのこの想いを知らないから。

そして仮に想いを知ったとて、彼女がそれに応えてくれることはありえないからだった。

彼女には、永遠に好きな人がいるのだ。

彼女のたったひとりの運命の恋人―ヴァルクス王太子。

彼はとうにこの世にない。

霧によって自我を失い民の虐殺を繰り返したため、セレイア自ら手に掛けた。

蜜月に失った命。

だからこそ、彼女の心の中で、彼は永遠になってしまったのだ。

ディセルはそっと、彼女のめくれた毛布を直してやった。

そして微笑む。

報われることのない想いでも、ディセルにとってこの気持ちは、何より大切なものだったから。
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