麗雪神話~炎の美青年~
ディセルはしばし黙り込んだ。

彼の心中は複雑に違いない。

彼は人でも神人でもなく、実は雪の神そのもの。そしてセレイアと出会う以前の神としての頃の記憶がほとんどない。

だからその空白の部分の出来事によっては、彼が命を狙われるような事態も想定できるのだ。

しかしそれをアル=ハルたちに打ち明けるのはもちろんはばかられるだろう。おいそれと口にしていい話ではない。

「…はっきりとしたことは言えませんが…そういうこともありえると思います」

ディセルの返答に、セレイアは彼の性格が出ていると思った。

ここはもし心当たりがあっても「心当たりはない」と返すのが当然だろうに、嘘をつかないところ。実に彼らしい。

アル=ハルにとってもこの返事は意外だったのだろう。

わずかに瞳を見開いた後、にやりと笑みを浮かべて言った。

「わかりました。これからはよりいっそう身辺に気を付けてください」

この一言でこの話は終わったのだとわかった。
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