麗雪神話~炎の美青年~
書斎天幕に向かおうと外に出ると、カティリナが箒とちりとりを持ってせっせと掃除にいそしんでいるのにでくわした。

彼女の掃除の能力は秀でていて、天幕周辺は驚くほどきれいに整っている。

アル=ハルが目元を和ませ彼女に声をかけた。

「いつもありがとう、カティリナ」

――すると。

あの冷淡なカティリナが、嬉しそうに頬を染めてはにかんだではないか。

まるで少女のようなその表情に、セレイアはびっくりしてしまった。

(こんな顔もできる人なんだ)

そしてその表情が恋する乙女のものだと、敏感に察した。

自分のこととなると鈍いセレイアだが、他人のことはよく見えるのだった。

(でもまさか、アル=ハルさんのことを…)

セレイアが思わずじっとカティリナをみつめていると、カティリナが不愉快そうに片眉をはねあげて言った。

「そんなところに突っ立っていないでくださいますか。そうじの邪魔です」

「あ、ごめんなさい」

セレイアは慌てて脇によけた。

やはりセレイアに対しては別人のようにクールだ。

「セレイア、行こう」

ディセルと共にすごすごと書斎天幕に向かおうとすると、やりとりを見ていたアル=ハルが声をかけてきた。
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