麗雪神話~炎の美青年~
歩くことしばし。

アル=ハルが二人を連れていったのは、集落と荒野が見渡せる高台の上だった。

赤い大地に並ぶ、赤い天幕。空は今にも泣き出しそうな曇り空だ。

「お二人はトリステアからいらっしゃったとか」

唐突に、アル=ハルはそう切り出した。

「お二人の目から見て、ここアル=ラガハテスはどうですか?」

「どうって……そうですね」

セレイアは言葉を選んだ。

「とてもあたたかくて、とまどっています。私はトリステアから出るのは今回がはじめてなので、雪がないというのがまだ新鮮です」

「俺も……そろそろ雪が見たい、雪に触れたい、そう思います」

二人にとってやはり落ち着くのは紛れもなく故郷のトリステアなのだ。

「そうですか。雪か…。確かにトリステアの気候はきびしい。けれど土地が豊かだ。アル=ラガハテスは気候こそ温暖だが、植物の育たない痩せた土地が多い。その分人々は限られた資源を奪い合う」

アル=ハルが眉をくもらせる。

「私は戦が嫌いです。侵略などしたくない」

その言葉に嘘はないのだろうとセレイアは思った。

トリステアの国境付近での小競り合いに、アル=ハル族の名があがったことは、ここ十数年ないことを知っていたから。

この人が、トリステアの平和に貢献してくれていたのだ。
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