……っぽい。
自分で散々、家がなくなったと言っておきながら、笠松に言われるまですっかり忘れていた。
あんな部屋にはもう住めないけれど、全部処分するには、それなりに時間もかかる。
仮住まいといっても、そこに経費はあまりかけたくないし、通勤にも支障は出したくない。
笠松に指摘されたことで、今の私の状況が急にクリアに見えはじめ、同時に、これからのことを考える頭も働き始めた。
急いでスマホを取り出し電話帳を眺めてみる。
時刻は夜10時になるところだ。
今からでも、数少ない友達に片っ端から連絡を取って事情を説明したら、誰か一人くらい同情して住まわせてくれる人がいるだろうか。
仕事関係や会社関係の人の名前の中に、申し訳程度にプライベートな関係の友人の名前が登録されている、それが私のスマホ事情だ。
電話帳をスクロールさせながら、頭に浮かぶ友人たちの今現在を思い出していく。
紗枝には家庭があるし、千秋は地元にいるし、通勤に何時間もかけられないから優里のところも遠くてダメだ、泉美のところは新婚さんだから邪魔になっちゃうしなあ……。
あれ? どうしたんだろう、スマホの画面が急にぼやけてきたんだけど。
「……もしかして先輩、友達いな--」
「いるよっ!」
笠松の言葉を必死の思いでかっさらう。