……っぽい。

とりあえず今日は泣いてください

 



さっき笠松が言っていたように、笠松の部屋は私の元部屋とわりとご近所さんだった。

私は駅の東口に部屋があったので東口のほうで主に用事を足していたけれど、なんのことはない、笠松は西口のほうに部屋があっただけ。

近所は近所でも、どうりで会わないわけだ。


「……ていうか、一晩だけでいいからね? 明日になったら、友達のところに泊めてもらえるように交渉しまくるし」


笠松が住むマンションの中に入り、順にエレベーターに乗り込む。

狭く密閉された箱の中で、階のボタンを押す笠松と十分に距離を取った私は、さりげなく“一晩だけ”を強調しつつ、そう言った。


あれよあれよと丸め込まれる形で、ここまで付いてきてしまったけれど、本来、会社の人の部屋に泊めてもらうなんていうことは、あまりいい行いとは言えないと思う。

よっぽど仲のいい、プライベートでもつき合いのある女友達の部屋ならまだしも、相手は後輩の、しかも男性社員の部屋だ。

ちょっと……いやかなり、私としては常識の範囲外に思うし、恋愛対象にもならないだろう30歳手前のオバハンが後輩の男の子相手に何を警戒しているんだろう、と我ながら呆れてしまうけれど、警戒してしまうものは、してしまう。
 
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