……っぽい。
 
そうしてたどり着いた、自宅前。

ドアが開くと、俺は先輩の唇にまっしぐらに飛びつき、何か言われる前に舌でそれを封じた。


こんなのはもう、勘違いでもなんでもしてしまうに決まっているのだ、部屋から漂うハンバーグの香り、ネグリジェ姿の先輩、これで仲直りしてねと置いてくれたマムッポン。

最初はドアを開けて早々にがっついた俺にひどく驚いたようだが、先輩はすぐに舌を絡ませて応じてくれ、それが嬉しくて嬉しくてたまらず、夢中で先輩を味わってしまう。

可愛い、愛おしい、全部欲しい……。

全部全部、俺にください。





けれど、俺はやはり勘違いをしていた。

こんなにも先輩が受けた傷は深かったのだとあの男を呪ったし、してもいいと頷いてくれた先輩をあのベッドで抱こうとした自分も、なぶり殺してやりたいくらい嫌いになった。

何より、勝手にもう傷は癒えているものと思い込んでいた、そのお気楽な思考回路こそが、どうしようもなく悔やまれて仕方がない。

先輩は臆病な自分を隠してしまうから、いつも平気そうに笑うから、嫌われるんじゃないかと怯えて、本心はけして見せてはくれないのだ。

……俺にだって。


「海月!?」


突如過呼吸を起こしてしまった先輩を、俺は何もできずに、ただ茫然と見つめるだけだ。
 
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