……っぽい。
 
思わず名前で呼んでしまったが、それよりも先輩をどうにかして楽にさせてあげなくてはと、そればかりが頭の中を駆け巡った。

抱きかかえ、背中をさすり、声をかけ続けて、早く良くなってくれ、無神経なことをしてごめん、先輩死なないで……何度もそう切実に願う。

それでも症状は良くならず、俺は泣きそうになりながら先輩を抱えて部屋の近くにある総合病院に駆け込み、助けを求めた。


大事には至らなかったが、やはり先輩は過呼吸を起こしたようで、その原因は間違いなく俺とあの男だと、当直医に「神経図太いんで初めてです」なんて真顔でボケる先輩のバカさ加減にもやや呆れながら、そこでもまた、グラグラと腸が煮えくり返る思いをする。

ああ、なんで俺はこんなにもバカなんだ。

先輩は3年も遊ばれてきて、やっとそこから這い出て、それからはいつも以上にパワフルに珍獣っぷりを発揮しているわけけれど、でも、傷が癒えていないわけじゃなかったのに。

ベッドをはじめとする家具にも、男に抱かれることにも、嫌悪や憎悪や恐怖……そんな、ぐちゃぐちゃに壊されてしまった脆くて臆病な心を抱えていたというのに、どうして俺がそのことに気づいてやれなかったんだろう。
 
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