……っぽい。
拓人くんを誠治さんに預け、店の外へ出てから植え込みに顔を埋めるようにして笑うしほりの姿は、一見すると具合が悪くなってしまった危機的状況に見えるが、その実は、ただ声にならないくらい爆笑しているだけである。
道行く人がそんなしほりの姿を見誤り、親切にも「大丈夫ですか?」と声をかけないことが、もはや奇跡に等しいミラクルを生んでいる。
誠治さんの腕に抱かれているので、しほりが席を外しても拓人くんは泣き出すこともなく愛らしい笑顔を振りまいているのが、せめてもの救いといったところだろうか。
笠松は笑いすぎのあまりに自分の呼吸を整えることすらままならず、ちっとも使い物にならないし、香久山さんは「ヤモリ……」とブツブツ呟きながら未だ放心しきっておいでだ。
誠治さんは拓人くんの笑顔にメロメロなので、ドレッサーの話を聞くどころではない様子。
「はー……」
私、泣いてもいいですか。
それでも、喉元過ぎれば熱さを忘れるということわざがあるように、しばらくすると真面目に言った“ヤモリ”発言も落ち着き、大人たちは改めてテーブルを挟んで相談モードに入った。
しほり夫婦の手元には主にドレッサーを集めたカタログが、私の手元には一人暮らし用の家具類のカタログが、それぞれ置かれた。