……っぽい。
 
「あの、香久山さん」

「はい?」

「過呼吸と、ベッドのこと、本当にありがとうございました。ちゃんとお礼も言えないままだったから、ずっと引っかかってて……。あの、今度、きちんとお礼させてください」


その3Lサイズの後ろ姿に声をかけ、彼が振り向いたところで、ずっと言いそびれたままになっていたあの時のお礼を私は言った。

過呼吸を起こした日のことと、何も言わずに迅速にベッドを新調してくれたこと、今日のカタログのことも、色々込みの感謝の気持ちだ。


「いえ、もうお礼は頂いてます。大口のお客さんができたし、新しいお客さんも紹介してもらいました。それでお礼ってことにして頂けたら、店的にも俺の評価的にも万々歳です」

「え、でも……」

「先輩、コイツのこと、あんまり信用しすぎちゃダメですよ。隙あらば高級家具とか平気で売りつけようとしてくるんですから」


食い下がる私に、笠松が割って入る。

明らかに面白くなさそうな顔で頬杖をついているのは……もしかしたら、香久山さんを追って通路に出た私が、思わず彼のシャツの後ろをちょっと掴んでしまったから。

なのではないだろうか。

笠松ごめーん‼ 無意識だったのよ!

他意はないですごめんなさーい!
 
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