……っぽい。
その現場を取り囲んでいる野次馬たちのほとんどは、彼女たちの罵り合いに口をあんぐりと開け、ただ成り行きを見守っているようだった。
けれど私は、人目もはばからず我を忘れて罵り合うそんな彼女たちの姿を見ているうちに得体の知れない恐怖が全身に這い上がり、思わず笠松の腕に力いっぱいしがみついてしまう。
「……先輩?」
「なんか、もしもあの中の一人が私だったら……って考えたら、どうしようもなく怖くなっちゃって。一歩間違えたら警察沙汰だよ。あの人、本当に言葉巧みに人を騙すの。本気で恋してた人、結婚したいって思ってた人、もしかしたら私だけじゃなかったのかもしれないね」
「……そうかも、しれないですね」
笠松の腕にぎゅうぎゅうとしがみつきながら、1人、また1人とパトカーに押し込まれていく女性たちを、ただただ恐怖の眼差しで眺める。
もしも私が、あの日、真人の浮気現場を目撃していなかったら、笠松に助けを求めなかったら。
笠松の本気の言葉や好意に気づけなかったら、自分のことは信じきれなくても笠松のことだけは信じきろうと思えなかったら。
もしもまだ、私が真人を好きでいたら。
--あの中の1人は、私だったかもしれない。