……っぽい。
「……うん、尋常じゃないのよ、マジで。私、今日から家がなくなっちゃったんだ」
「はい?」
「家はちゃんとあるの。でも、もう帰れない。生理的に受け付けられなくなっちゃった」
「ごめん先輩、支離滅裂なんすけど……」
私としてはきちんと説明しているつもりだったけれど、申し訳なさそうな顔で後頭部を撫でる笠松を見て、自分の言動がおかしなことになっているのにようやく気づく。
そうだ、笠松は私の電話を受けて駆けつけてくれたのであって、事情は何も知らない。
順を追って話さなきゃならなかった……。
でも、あの光景をもう一度自分の口から言うのは、なかなかヘビーなものがある。
笠松の到着を待つ間、自宅マンションの前で待つのではなく、わざわざ水族館に場所を移したのだって、一刻も早くその場を離れたかったからに他ならないし、私と同じ名前の『海月』に無意識に会いたくなったからかもしれない。
一口に『海月』といっても、水槽の中にいるのは“クラゲ”で、私は“ミツキ”だけれども、同じ漢字を使う仲なのだから、会いたいと思ってもあんまり不思議じゃないような気もする。
とどのつまり、自宅以外の行き先として思い当たる場所がここしかなかった、というわけだ。