……っぽい。
 
自分たちは飲まないくせにサンプルで頂いた物に“ケチのハゲオヤジ”なんて難癖を付けるのもどうかと思ったけれど、瀧川さんが笑ってくれたから、全てオッケーなのである。

確か6本パックをそのまま冷蔵庫で冷やしていたはずだから、とりあえずグラスを2つと、あとは何かおつまみを用意して、テレビでも見ながら笠松が帰ってくるのを待っていよう。





それからしばらく経った、夜7時頃。

ノンアルのはずなのに異様なハイテンションでワイワイ話していた私たちの耳に、玄関の鍵を開ける音がふっと聞こえてきた。


「笠松ですね」

「……です、かね」


さっきまでの楽しげな表情から一変、俄に緊張し始めた様子の瀧川さんの背中を何回か優しく撫で、前もって決めていた通り、まずは私が笠松を出迎えるために玄関に走っていく。

『やっぱり恥ずかしいので……』と耳まで真っ赤にし、心底困り果てた顔でお断りしていた瀧川さんに酷なことはさせられない。

ガチャリとドアが開き、笠松の頭が見えてきたタイミングで「おかえり」と、それから間髪入れずに「お客さん来てるよ」と言って、目を丸くして驚いている笠松に私は笑った。
 
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