……っぽい。
「お客さん、て……?」
尋ねた笠松に、ニコニコ、ニコニコ。
無言で下に目線を向け、玄関にきっちりと揃えられているミュールを見てと訴える。
最初の数秒間は私の意図が読めずに目をキョロキョロとさせていた笠松だったけれど、やがて何かを察したらしく、困ったような、呆れたような顔でふっと笑うと、片腕で私を自分の胸元に押しつけ、私にしか聞こえないように囁く。
「無敵な彼女を持って幸せです」
どういう言葉を返すのがこの場合正解なのだろう、と考えあぐねていると、笠松は私を抱きしめる腕にぐっと力を込め、また囁いた。
……さっきより、いくぶん熱の籠もった声で。
「寝たふりでも何でもいいです、同じ空間に一緒にいてください。……ほんっと海月ってバカ」
その瞬間、体中から一気に熱が放出しはじめ、急に頭がクラクラしだしてきてしまった。
ちゃんと名前で呼んでもらった嬉しさや恥ずかしさもあるし、笠松が一緒の空間にいてほしいと言ってくれた安心感も、もちろんある。
でも一番は、笠松の顔を見て、匂いを感じて、ずっと張っていた気が糸が切れたように突然緩み、夏風邪の熱がぶり返してきたから。
……のように、思う。