……っぽい。
 
心のどこかでは笠松が一緒に住もうと言ってくれるのを待っていたくせに、その先の未来にもとっくに気持ちが向いているくせに、あと一歩のところで怖じ気づいて踏みとどまってしまったのは、自分に自信がないから。

愛という、形のないものを相手にしているから。


いっそ新しい命でも宿ってくれたなら、結婚まで5段飛ばしくらいで階段を駆け上れるんだろうけれど、笠松はどんなときでも私を大切に扱ってくれるから、その可能性は薄い。

そもそも、そうじゃない。

私が私を信じきれるかどうかの問題だ。

笠松が信じてくれている私を、私がちゃんと信じてあげられるかの、そういう問題なのだ。


「朝ご飯作るよ。何がいい?」


笠松のほうを振り向けないまま、どこかよそよそしく尋ねてしまった私に、しかし笠松は、いつもの調子で真面目なのか不真面目なのか分からないことを言ってくる。


「先輩がいいです」

「却下」

「あ、お風呂入ってないからだ?」

「笠松もでしょ?」


その様子に安心して笑いながら振り向くと、笠松はにっこりと微笑んで両手を広げ、いつからなのか、私を抱き留める準備をしていた。

笠松は強いな。
 
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