……っぽい。
なんてことはない、ただの家具の話。
しかも、相当急いでいるようで、香久山さんはとても早口に喋るため、スマホの向うから彼のツバが飛んできそうな勢いだ。
「いいですよ、そのお客さんに譲ってください」
『ありがとうございます!』
手短に答えると、すぐに通話は切断された。
察するに、そのお客さんはもともと私がキープしていた家具が欲しかったけれど、いつも在庫切れや入荷待ちで手にすることができずにいて、それでも諦めきれずにチェーン店を何店舗も探し歩き、ようやく香久山さんが勤めるお店で在庫があることを知り、どうしても欲しいんですと彼に頼み込んだのだろうと思う。
笠松がどこかおかしい今、どうしても私はこの部屋を離れるわけにはいかないし、キャンペーン先からちょくちょく送られてくるお土産を受け取る業務も請け負っている。
私も欲しかったけれど、今回は仕方がない。
時間はかかるけどまた入荷するということらしいし、そのときに改めてキープなり購入なりさせてもらえれば、何も問題はない。
それから数日して今度は母から電話があった。
「お盆休みくらい実家に帰ってきなさいよ」という優しさに溢れた愚痴だったけれど、私はそれを「友だちとキャンプに行く予定が入ってるから帰れない、ごめん」と丁寧に断った。