……っぽい。
 
面会時間は午後8時までと院内の案内にあったので、大崎ちゃんの神業的なミラクルフォローに、この場面でも盛大に感謝だ。

あと1本遅い新幹線だったら、面会時間内に笠松に会えたとしても、すぐに8時になってしまって話なんてろくすっぽできなかった。


警備室の職員さんに面会の旨を伝え、ゲストカードを受け取り、教えて頂いた病室へ向かう。

病棟を歩いていると私のほかにも面会に来ている人がちらほらといらっしゃるようで、すれ違うときに会釈をしたり、「こんばんは」と挨拶をしたりしながら、エレベーターで7階まで上がり、707号室のドアをノックした。


「はい」

「本社から参りました、橘と申します」


笠松かと思いきやどっこい、おじさまの声がしたので、慌てて姿勢を正しドアを開けつつ社会人らしく礼節をわきまえた口調で名乗る。

ドアの前まで来てわざわざ私を迎え入れてくれたおじさまは、人差し指を口の前に立てて“静かに”のポーズをとると、小声で「今、眠っているところです」と笠松の様子を教えてくださり。

さらにはジェスチャーで“どうぞ、椅子におかけください”と物腰柔らかく私を笠松のそばまで案内してくれ、気を利かせてくださったのだろうか、おじさまは静かに病室を出ていった。
 
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