……っぽい。
 
--のに。

ああヤバい、倒れる……と、まるで他人事のように思ったのを最後に、それからずっとフワフワと夢の中を漂っている気分だった俺がふと目を開けると、会いたかったような、会いたくなかったような、そんな複雑な気分にさせる人物が目の前にいるって、どういうことだろう。


「あ。やっほー、久しぶり、笠松」


相変わらずナマケモノ顔の。


「ていうか笠松、ナマケラゲはいかがなものだろう。確かに可愛い。可愛いけど、なんたってじわじわだからね。考えるなら一目見た瞬間に可愛いって思うものを作ってよね」


相変わらずじわじわくる可愛さの。


「なにおう!?」


ツッコんでいてもなぜか発言全てがボケになってしまう俺の愛しい先輩がいるって、ほんと、まだ夢でも見ているんじゃないだろうか……。

先輩の顔を見て安心したのか、倒れたことや仙台まで駆けつけてもらったこと、あの夜のことに対しての申し訳なさからなのか。


「笠松はよく頑張りました」

「……っ、先輩……」


先輩のその一言と笑顔に、とうとう俺は今まで頑なに我慢し耐えてきたものが堰を切ったように溢れてしまって、ベッドから起き上がり、先輩の体をそっと引き寄せると、その小さくて華奢な体に思いっきりしがみついて泣いた。
 
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