……っぽい。
 



それからしばらくして気持ちが落ち着くと、ズスッと鼻をすすりながら、キャンペーン中の出来事をぽつりぽつりと話しはじめる。

ナマケラゲの発売は9月下旬で、ちょうど期間の折り返し地点となる仙台でのキャンペーンが発売前の最後のキャンペーン地となっており、それまでは着ぐるみとノベルティグッズの配布で知名度を上げていく作戦だった。


「ナマケラゲ、意味不明だって言った人がいました。目指すところが分からないらしいです」

「ぶはっ!」

「あと、飼育員はどこだ!?って辺りをキョロキョロ探した人もいました。いや、中に入ってますしね。名乗り出はしませんでしたけど」

「あ、私、笠松に飼育されてたんだ?」

「そうですよ、何を当たり前のことを。ほんでも、ちびっ子にはけっこう人気だったかなあ。みぞおちパンチとか、いきなり抱きつかれたりとか、ハードなスキンシップでしたけど」

「子供って、そういうとこが怖いよね」

「特に男の子。あれはヤバい」


ぶるぶると頭を振ると、先輩もあははと笑ってくれて、やっと俺にも少しだけ笑顔が戻る。

倒れたし、泣いたし、これでもかっていうくらいに弱いところを見せてしまったものの、好きな人の笑顔がすぐ手の届く距離にあるっていうのは、しみじみ元気が出るものだ。
 
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