……っぽい。
 
玄関のドアに手をかけた、まさにそのとき、ピンポーンとインターホンが来客を知らせた。


「笠松!」


モニターで確認することなく急いでドアを開けると、そこに立っていたのはやっぱり笠松で。

しかも、ちらほらと街の明かりが灯りはじめた夕暮れをバックに、ものっすごい大きな赤いバラの花束を肩に担いでニシシと笑っていて。


「ただいま、海月」


そう言って空いているほうの手で私を力強く抱き寄せ、耳元で甘く囁くものだから。


「お、おかえりぃ〜〜……」

「泣くほど嬉しいの?」

「当たり前だー、ばかやろー」

「ははっ、俺も嬉しい」


泣く。むしろ泣く以外の選択肢はない。

強烈なバラの香りに混じって笠松の匂いがする。

笠松の背中に腕を回すとMサイズのしっくり感がちゃんとあって、一時期痩せてしまった体がキャンペーンの後半で戻ったことが窺えた。

ああ、よかった、心身ともに元気で。


「海月はちょっと痩せた?」


ほっとしたらさらに涙が出てきてしまって、スーツに垂らしちゃいかんと慌てて鼻をすすっていると、抱きしめたまま笠松が聞いてきた。

先輩呼びと敬語をキャンペーンの間に取っ払ったらしい笠松が無駄に格好良くて、逆にちょっと癪に障るのは私の気のせいだろうか。
 
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