……っぽい。
 
それから少しの間、頭を抱えて何かをぶつぶつ言っていた笠松だったけれど、私がケーキにぱくついている間にどうにか復活を遂げたらしく、顔を上げたその表情は、いつになくキリリと引き締まっているように見える。

と。


「俺は一目惚れだったよ。最終面接の日、会社の回転扉の中で回ってたのを助けたときに、こっちを見上げてきた顔に惚れた。それからずっと先輩として好きだと思ってきたけど、あの日『助けて』って電話をもらったときにようやくそれが恋愛感情での“好き”だったんだって気づいて、必死で引き止めてた。それで今、目の前でケーキ食べてる人を愛してるって思ってる」


おもむろにテーブルの下から小さな箱を取り出した笠松は、てろんてろんのベルベット生地の蓋をパカリと開けると、私の左手をそっと引き寄せ、薬指に“綺麗で小さいやつ”を通しながら、それはそれは穏やかな口調で言う。

するりと難なく通ったことを確認すると、満足そうに「お、ぴったり」なんて言って一人で喜んでいて、あんまりびっくりして瞬きすらできない私はカチコチに固まってしまった。

そんな私を見て苦笑すると、笠松は仕方がないといったふうに頭の後ろをワシワシ撫で、改めて私の目をしっかり見つめてこう言う。
 
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