……っぽい。
「そのとき俺は、相手が医者なら太刀打ちできないと思って彼女に“別れよう”って言ったんです。そしたら彼女、どうしたと思います?」
「ヒャッホーイと喜んだ」
「先輩バカですか。逆ギレですよ、逆ギレ」
冷ややかな目線と台詞でピシャリと切り捨てられ、悪い冗談だったとわずかに反省する。
まあ、彼女の気持ちも分からなくもない。
浮気はしてしまったけれど完全に笠松から気持ちが離れたわけではないし、笠松の愛を確認したい、自分を医者と奪い合ってほしい、そんな気持ちもあっての逆ギレだろう。
ていうか笠松、よっぽどあっさり“別れよう”って言ったんだろうか、そりゃキレられるわ……。
なんてことを考えていると、笠松はまた語る。
「普段は温厚な彼女からは想像もつかないくらい、ひどく怒鳴られて。結婚まで視野に入れて同棲してたのに浮気されたのは俺でしょ? それなのに、なんで怒鳴られにゃならんのだと思うわけじゃないですか。なんかもうすっかり冷めちゃって、そのままケンカ別れ、みたいな。今までの人生の中で、あのときほど上手くいかなかったことはありません!」
「……」
なんかもう、失恋に苦しんでいるのか、上手く彼女を転がしきれなかったことに後悔しているのか、どっちなんだか分からなくなってきた。