……っぽい。
んまー、なんて見事な嘘も方便なのかしら。
出張先がフランスという非現実的な設定はこの際いいとしても、自分でもびっくりするくらい上手に嘘がつけしまって、逆に感心する。
ちなみに、フランスは私が考えた。
それにしても、笠松ってキレ者感ハンパない男なのではないだろうか、実際。
『金曜日、会う約束してたっけ?』なんていうカマかけを瞬時に考えつけるのだから、私のひとつ手前の席でこちら側を向いて他人を装いスマホをいじっている笠松を見るにつけ、笠松カマカマ……いや、笠松様々の心境である。
よし、ユッケと冷麺も奢ってやろう!
「でも、橘の勤め先って、すごい老舗の文具メーカーでしょ? よくフランスなんていうお洒落な街にコネがあるよなぁ。すげーすげー」
「若社長がね、昔留学してたんだって」
「へー」
……まあ、全部嘘なんだけどね。
けれど、思いのほか信憑性があったようで、真人は騙されているとも知らずにホイホイ引っかかり、ここにゴキブリホイホイ2号が誕生。
あともう少し、あともう一押しの嘘でスペアキー奪還のミッションがクリアできる!
「だからさ、早く鍵を返さなきゃなんだ」
「そっか。そういうことなら、はい」