……っぽい。
◆泣きっ面にハチの珍獣
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橘海月という人は、基本アホでできている。
例えるならば、珍獣。
珍しい獣と書いて珍獣だ。
俺が初めて先輩と出会ったのは、入社式も済み配属先が決まり、部署の先輩方との初顔合わせのとき--ではなく、最終面接試験の日。
朝、緊張感ハンパなく『鶴亀堂』本社ビルに到着したとき、目にした光景に戦慄が走った。
「……は!?」
入り口が回転扉式になっているドアの中をなぜかぐるぐる回り続けている、一人の女性。
今時、回転扉もまともにくぐれない人がこの世にいたんだ……と驚愕したが、なんせ今日は最終面接、緊張しすぎて回転扉がくぐれないでいるのだと解釈した俺は、助けてやろうと思い、彼女が回るタイミングに合わせてドアに体を滑り込ませ、面接で鍛えたウケのいい笑顔を振りまきながら「おはようございます!」と。
元気いっぱい、そう声をかけた。
そのとたん、はっと弾かれるようにして俺に顔を向けた彼女は、栗色のふわふわショートボブの髪を揺らしながら驚いたように目を見開く。
見開かずとも元々大きな目は綺麗な二重のタレ気味、左目の横の泣きボクロが異様に艶めかしく、思わず俺もはっと息を呑んでいた。