……っぽい。
 
このときの俺は、まだ知らなかったのだ。

一緒の採用面接試験を受けに来たとばかり思っていた、この可愛い彼女が、実は配属先の先輩社員だったということ。

あろうことか、珍獣だったということを……。





なんとか『鶴亀堂』に採用が決まり、新人研修を経て、“鶴亀堂の歴史を世に広める課”、略して『鶴亀課』に配属になった4月半ば。

仕事内容も、課の名前も意味が分からず、早々にドロップアウトしそうになっている俺のデスクに近づいてきた彼女--橘海月先輩は、ぬぼーっ……と呆けている俺を気に留める様子もなくデスクにちょこんと手をかけてしゃがみ込むと、まるで犬が「おやつください!」と愛想を振りまくような笑顔で、こう言った。


「笠松君、この間は励ましてくれてどうもありがとう。どうして私が、新入社員歓迎会のプログラムを採用してもらえるかどうかで悩んでいたのを分かったのか、よく分からないけど、励ましてもらったおかげで採用になったよ」

「はあ……」

「それで、鶴亀課からはぜひ笠松君に、そのー、できれば、本当にできればだけど、腹踊り的な伝統芸能をいっちょ披露して頂きたい!」

「はあ……は!?」
 
< 74 / 349 >

この作品をシェア

pagetop