……っぽい。
 
一瞬、先輩のお腹をあわよくば拝んでみたいと思ってしまったが、俺には彼女がいるし、見たら見たで絶対に後ろめたい。

もちろん今年も先輩に腹踊りをさせるわけにはいかないし、抜擢してくれているのだから俺がやるしかないじゃないか……必然的に。

がっくりとうなだれ乾いた笑いをこぼす俺に、やっと立ち上がってくれた先輩は言った。


「歓迎会が終わったら、課のみんなには内緒で美味しいもの奢ってあげるね。考えといて」


こういう気遣い、正直いらねー!

腹踊り排除運動をまず起こせ!頼むから‼





しかし、この腹踊りがきっかけで先輩と親しくなれたのだから、あのとき会社を辞めていなくて良かったと、今は本気で思っている。

一緒に働き始めて3年、その間にお互いに色々なことがあり、俺は高校時代からずっとつき合ってきた看護師の彼女--瀬川千晶と別れ、先輩はその間、最低男に弄ばれていた。

前年度に急きょ新設された『めんこい課』に一緒に配属になったのも、傷つきまくった先輩をすぐに守ってやれる距離にいられるようにするための、長い前触れだったのかもしれない。


『笠松、助けて……』


取った電話の向こうで泣いていた先輩の声が、あのときからずっと、耳から離れない。
 
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