……っぽい。
私の弱々しい抗議の声を遮り、いつもは怒ることのない笠松が珍しく本気で怒った声を出した。
思わずびくっと体が震え、反射的に「……ごめんなさい」と意味も分からず謝ってしまう私は、先輩といえども結局は女であるらしい。
本気怒りの笠松があんまり怖くてじわりと目に涙が滲み、怒りと落胆と悲しみに歪んだ笠松の顔が、みるみるうちにぼやけていく。
こんなの笠松じゃないよ……。
笠松の前だけでは、こういう男女間のいざこざ的な涙は流したくなかったのに、意に反して私の目からは涙が一筋流れた。
そんな私を射るような目で見て、笠松は言う。
「先輩はたぶん、自分を一番に想ってくれる人と恋をしたことがないんですよ。気づきませんでしたか? スーパーのカゴも、チュッポチャップスも、軽めの袋しか持たせないのも、部屋着のプレゼントも、仕事のフォローも。ちゃんと先輩を想ってつき合ってくれた人となら、先輩はとっくの昔に経験済みなんですよ」
「え……?」
「分かるはずなんですよ。そういう“好意”」
「……ふぇ……」
ああもう、どうして笠松は、私の身ぐるみを剥がすように心に沁みついてしまった黒い部分までベリベリと剥がそうとしてくるんだろう。