……っぽい。
そうか、溺愛されるなんて選択肢は、私の恋愛には最初からなかったからな……。
うん、本当に“いいこと”を教えてもらった。
けれどそこで、ふと疑問が浮かぶ。
溺愛されて骨の髄まで尽くされる恋も、私の思いのままに相手を振り回すワガママな恋も、どうやったらいいのか、やり方が分からない。
そもそも、相手がいないと始まらない。
というよりも、恋にはもうこりごり、今は1日でも早く部屋を片付け処分し、笠松から巣立つのが、私の中での最重要案件である。
「……あ、あのね笠松」
「はい?」
小首を傾げた笠松に、今の気持ちを告げる。
「私、今は恋とかいいんだ。こんな残念なアラサーにつき合って床ドンとかしなくていいんだよ? 笠松が身をもって矯正してくれてるのはすごく嬉しいけど、笠松も恋しなね」
「……」
「まだ若いんだからさ」
言い終わると、今まで妙に熱っぽい表情で私を見下ろしていた笠松が、なぜかがっくりとうなだれ、また「なんで、なんで……」と呪いの呪文よろしく、そんな言葉を呟きはじめた。
それはまるで、シュワシュワと炭酸が抜ける音が聞こえてくるかのようで、何か笠松の地雷を踏んだのだろうかと急に不安になってくる。