……っぽい。
放心し無言で涙を流す香久山さん。
香久山さんが放心したことで支えを失い、青い顔で床に倒れそのまま気を失ってしまった笠松。
終始オロオロしつつも、なんとか2人を介抱せねばと孤軍奮闘する私。
三者三様の戦いは、幕を開けた。
それから1時間ほどして、ひとまず部屋に安堵と落ち着きが戻りつつあった頃。
服の乾燥待ちのために帰るに帰れずにいた香久山さんに、わずかながらのおもてなしでホットミルクを出した私は、そこで初めて、彼からずーっと注目を浴びていたことに気がついた。
「橘さん……でしたっけ。あなたの全身、まっつんだらけです。胃に入っていたモノの」
「へ?」
「こりゃ、アイツもああなるわ」
「はあ……」
要は、笠松のオエオエが、無我夢中で介抱したり片付けている間に私の服や顔、髪に付いてしまったと教えてくれているのだろう。
けれど別にそんなのは汚いとも思わないし、オエオエしたまま息絶えてしまった笠松を蘇生させることのほうが私には重要だっただけだ。
なんとか汚れた服を脱がせて新しい服に着替えさせ、香久山さんに手伝ってもらいながらベッドに寝かせ、笠松が寝息を立てるまで背中をさすり続ける--だって、家主のピンチに立ち上がらない住人なんているわけがないのだから。