4月1日
入社してすぐに能力の差を感じていたけれど、5年目の春。
とうとう曽田は私の上司になった。
同期のくせに。
いや、出来る奴だから当たり前なのだ。
いろんな気持ちが入り交じったまま、歓迎会に出席した。
それはつまり、昇進した曽田のお披露目の場でもあり、私はすぐに後悔することになった。
「期待しているぞ」
「頼んだぞ」
部長や課長に背中を叩かれながら笑っている曽田の姿が、ひどく遠く見えた。
末席近くで見知らぬ女子社員と当たり障りの無い話をしていると、自分は一体何をしているのだろうと落ち込んできた。
この5年、自分なりに頑張ってきたのだけれど。
最近、自分の能力と会社の求めるベクトルの差に、少々息切れを感じている。
転職を考えるなら30歳がひとつの壁になるらしい。
その壁まであと3年。
キャリア、結婚、何一つ手にしていないのに、これからどこへ向かえばいいのか。
上司の巻き起こす馬鹿笑いをBGMにして、ひとり鬱々とグラスを重ねる。
そして、気が付けば女子社員は消え、曽田が隣に座っていた。
そういえば、昇進のお祝いさえまだ述べていない。
「曽田主任、不出来な部下ですがよろしくお願いします」
水の入ったグラスを持ち上げた。
一瞬不思議そうな顔をした後、曽田は目を細めた。
「こちらこそ、改めてよろしく」
音さえ立てないほど微かにグラスをぶつけ、祝杯は終わった。
もっとちゃんとおめでとうと言えば良かった。
中途半端な自分を戒めながら、酔い覚ましに水を飲み干す。
思っていた以上に渇いていたようで、体中に冷たさが広がった。
冷静になった頭で周りを見渡せば、いつの間にか宴会はお開きになっていたらしく、潰れた赤ら顔が残っているだけだった。