4月1日
酔っぱらい、客引き、いちゃいちゃするカップル全てが邪魔だった。
泣き顔の女が珍しい?
ガード下の飲み屋の店先、驚いた表情で振り返る人が鬱陶しい。
一期一会なんて嘘だ。
きっとこの人達ともうこれから会う機会なんてないんだから、どう思われようが関係ない。
立ち止まり、パンダになろうが構わないと手の甲で乱暴に目元を擦っていると、強い力で肩を掴まれた。
「岡部」
少し息が切れた、上擦った声で名前を呼ばれた。
「ちょっと待てよ」
振り返る間もなく、後ろから抱き締められた。
「曽田?」
長身の曽田が私を包むように両手を回す。
春先の冷たい夜空の下、ほんのりと曽田の温もりが背中越しに伝わってくる。
両腕にぎゅっと力が込められ、私は小さく身じろぎをする。
さっきまで気にしていなかった周囲の視線が、急に恥ずかしくなった。
だが、曽田は緩めることなく話を続ける。
「おまえな、訂正するなら今のうちだぞ」
5年間聞き慣れた声が、耳元でそっと囁かれた。
「訂正?なにを?」
動揺を隠せないまま、曽田に聞き返す。
今、私はアルコールを飲んだ時以上に真っ赤になっていると思う。
そして、思考は停止寸前だ。
うるさいくらいに激しく鼓動している心臓の音が、曽田に伝わっていないことを願うしかできない。
「俺のことキライなの?」
少し落ち込んだ曽田の声。
そんな風に訊いてくる曽田が嫌いだ。
仕事でも、恋でも、素直になれないへそ曲がりの私と対称的で、真っ直ぐで、眩しくて。
「……キライに決まってるじゃない」
弱々しい声で答える。