4月1日

「ホントに?もうエイプリルフール終わっちゃうよ?」

左手首につけた曽田の腕時計が、12時少し前を指している。

「嘘?」

今夜は長い宴会だったから、もうとっくに日付は変わっていると思ったのに。

「時計も読めないくらい酔っぱらってるのかよ?」

くっと喉で笑いながら、私の肩に体重をかけてくる。

「重いっ」

曽田の重みに耐えながら、その時計を見つめる。

23時48分

秒針は刻一刻と4月2日へと私達を運んでいく。

今ならまだ間に合うのかな?

「曽田」

静かに名前を呼ぶと、曽田は私から体を離し、正面へと立った。見たこと無いくらい緊張で強ばった顔をして。

「何?」

触れるほどに距離が近いと、背の高い曽田の顔は見上げないといけないことに初めて気が付いた。

ぐっと顎を上げ、曽田の整った顔を見つめる。

「悔しい……けど、好き……」

いつか想いが消えるまで隠しておくつもりだった言葉は、うまく声に乗せることができなかった。

でも、どうやらちゃんと伝わったらしい。

曽田の手が伸びてきたと思ったら、私は再び奴の腕の中に包まれた。

「おまえのこと、わかってるって言っただろ。いい仕事をするためなら残業も厭わない頑張り屋で、いつだって真面目な努力家で」

曽田の言葉ひとつで、どんなにお酒を飲んでも刺さって取れなかった固まりがすっと消えていった。

この人は、本当に私のことがわかっているのかもしれない。

不思議な安心感が波のように広がっていく。

凪のように穏やかな気持ちのまま曽田の言葉に浸っていると、不意打ちをくらった。

「素直じゃないとこも」

「ちょっと」

曽田の胸に額を押し付け、抵抗を試みる。

だが、男の力に敵うはずもなく、ただ抱き締められるに終わった。


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