君と手を繋ぎたくて
「……何度呼ぶなと言えばわかるんだ」
「何度言われてもわからないよ」
コイツは、俺がユウと呼ばれると必ず顔をしかめることを知っている。
時には視界がグラグラ、荒れ狂う海に浮かぶ船に乗っているような感覚に襲われることも。
…本当この弟、どうにかしてほしい。
今でも、消えない。
「ごめんね」と涙を流しながら、消えてゆくアイツ―――。
ヒナちゃんと同じ名前を持つ、アイツ―――。
何をしていても、何を考えていても、忘れたことなんてない。
どうしてだろう。
どうして俺はあの時、アイツを守ることが出来なかったんだろう。
少なくとも俺はあの時、アイツのことが好きだったのに。
これからもずっと、一緒にいられると信じていたはずなのに。
変わらぬ日常が続くと思っていたのに。
もし今、同じ場面に遭遇したのなら。
俺は助けることが、出来るのだろうか。
その手を、掴むことが出来るのだろうか?
今日、ヒナちゃんを助けた時のように。
その手を離さないことが、出来るのだろうか……。