君と手を繋ぎたくて
鬼頭先輩はあたしが思っていることがわかったのか、ふっと微笑んだ。
「俺は未成年だからな。
名前は一応伏せられてはいた。
だけど少年院に入ったって言うのは消えねぇからな。
相変わらず世間からの俺への視線は冷たいもんよ。
今アルバイトしているところは、俺みたいに過去に犯罪を犯した奴らが多い所だからな。
来るお客とかも、理解してくれている客ばかりだから、問題ねぇよ」
そっか、良かった。
「…お前、俺のことどう思うんだ?」
「どうって、どういうことですか?」
「俺が雛乃を襲わなければ、お前の好きな奴がこうやって何年も苦しむことなかったんだぜ?
俺のこと、憎いかよ?」
あたしは静かに、首を振った。
「いえ、憎くないです。
確かに鬼頭先輩がしたことは、許されることではありません。
あたしも一応は女子ですから、最低な行為だと思います。
ですけど、今はやっていないんでしょう?
例え辛い過去があった人でも、今が幸せならそれで良いんです。
どんな過去があっても、命は1つしかないですし、幸せになる権利も平等にあると思うんです。
優志先輩が現在鬼頭先輩をどう思っているかは知りません。
優志先輩にとっては、大事な人を自殺へと追い込んでしまった鬼頭先輩は、許せない存在だとも思います。
でも、あたしは鬼頭先輩を憎みません。
鬼頭先輩も、今は更生して、良い人になっていますしね」