君と手を繋ぎたくて







あたしがニコッと笑うと、鬼頭先輩は恥ずかしそうにはにかんでいた。





…にしてもあたし、何だか恥ずかしいこと言っちゃったような…。

命は1つしかないし、幸せになる権利は平等にあるとか。

確かにその通りなんだけど、何だか青春ドラマの主人公になった気がして、恥ずかしいや。






「…陽菜乃」

「は、はいっ!」





勘違いと気がついてから今まで、お前としか呼ばれていなかったから、突然下の名前で呼ばれて驚いた。






「優志のこと、よろしく頼むな。
陽菜乃なら、きっと優志を十字架から救ってやれるはずだ」

「…でも、あたしで良いんでしょうか?」

「陽菜乃だから出来るんだ」

「だってあたし、雛乃先輩と同じ名前なんですよ?
顔も何だか似ていますし…。
優志先輩、あたしを見る度に雛乃先輩を思いだして、辛い思いしませんかね?」






優志先輩が辛い思いをするなら、あたしは優志先輩の傍にいない方が良い。

本当はいたいけど。

一生優志先輩の隣で笑っていたいけど。






「馬鹿だな、陽菜乃は。

陽菜乃が雛乃と似ているから、俺はお前に託すんだよ。
お前しか、優志を救えないと思うんだ。

優志の中で、ヤマグチヒナノがお前じゃなく、雛乃だったとしたら。
お前が優志の中のヤマグチヒナノになれば良いじゃねぇか。

お前が優志の中で1番大事な、ヤマグチヒナノになれば良いんだよ」






鬼頭先輩の言葉は、少し乱暴だけど、真っ直ぐだ。

真実しか教えてくれない気がする。

あんまり詳しく話してはいないけど、何故かそう思えるんだ。






“優志先輩の中で1番大事な、ヤマグチヒナノになれ”

きっと鬼頭先輩のこの言葉が、

―――あたしの背中を押してくれるだろう。








< 142 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop