君と手を繋ぎたくて
あたしがニコッと笑うと、鬼頭先輩は恥ずかしそうにはにかんでいた。
…にしてもあたし、何だか恥ずかしいこと言っちゃったような…。
命は1つしかないし、幸せになる権利は平等にあるとか。
確かにその通りなんだけど、何だか青春ドラマの主人公になった気がして、恥ずかしいや。
「…陽菜乃」
「は、はいっ!」
勘違いと気がついてから今まで、お前としか呼ばれていなかったから、突然下の名前で呼ばれて驚いた。
「優志のこと、よろしく頼むな。
陽菜乃なら、きっと優志を十字架から救ってやれるはずだ」
「…でも、あたしで良いんでしょうか?」
「陽菜乃だから出来るんだ」
「だってあたし、雛乃先輩と同じ名前なんですよ?
顔も何だか似ていますし…。
優志先輩、あたしを見る度に雛乃先輩を思いだして、辛い思いしませんかね?」
優志先輩が辛い思いをするなら、あたしは優志先輩の傍にいない方が良い。
本当はいたいけど。
一生優志先輩の隣で笑っていたいけど。
「馬鹿だな、陽菜乃は。
陽菜乃が雛乃と似ているから、俺はお前に託すんだよ。
お前しか、優志を救えないと思うんだ。
優志の中で、ヤマグチヒナノがお前じゃなく、雛乃だったとしたら。
お前が優志の中のヤマグチヒナノになれば良いじゃねぇか。
お前が優志の中で1番大事な、ヤマグチヒナノになれば良いんだよ」
鬼頭先輩の言葉は、少し乱暴だけど、真っ直ぐだ。
真実しか教えてくれない気がする。
あんまり詳しく話してはいないけど、何故かそう思えるんだ。
“優志先輩の中で1番大事な、ヤマグチヒナノになれ”
きっと鬼頭先輩のこの言葉が、
―――あたしの背中を押してくれるだろう。