君と手を繋ぎたくて
「…俺のこと、好きなの?」
真剣な表情で、先輩はあたしに問うた。
あたしはそんな先輩の顔から目をそむけることは出来なくて、恥ずかしくても真っ直ぐ見つめた。
「……好きです。
入学式で会った、あの時から……」
『何しているんだよ!
怪我したらどうするんだ!?』
入学式の時、先輩はあたしに向かって声を荒げた。
普段口数は少なく、温厚な先輩が。
先輩の変化に、周りにいた2年生の生徒は驚いていた。
先生たちも、『村木……?』と驚いていた。
先輩はあたしを、入学式が終わるまで叱っていた。
普通だったら嫌な印象しか残らなかったかもしれない先輩だけど。
あたしは確実に、あの時恋をしたんだ。
「入学式の時…?
え?あの時の俺を好きになったの?」
「はい……」
先輩は信じられないみたいで、また小さく右方向に首を傾げた。
「あの後俺、ハルとかに信じられないって言われたんだけど…」
「当たり前だろ。
あんなに陽菜乃ちゃんのこと怒鳴らなくても良かっただろ」
初対面の印象が怒鳴っていた先輩なのだ。
普通の女子だったら、先輩を好きになることはなかっただろう。
怖い、と思うのが普通だから。
あたしも確かに怖いと思ったもの。