君と手を繋ぎたくて
ココアを飲んでいた先輩は、ふとその手を止めた。
そして哀しそうな笑顔を、やっぱり浮かべた。
だけどその笑顔に含まれているのは、哀しさだけでない。
“俺に彼女なんて出来ることはない”と言っているようにも見えた。
やっぱり、今でも背負い続けているんだ。
雛乃先輩を救えなかったという、罪の十字架を。
あたしは振り払われるのを承知で、先輩の手を握った。
そして真っ直ぐと、先輩の双眸を見つめた。
やっぱり、哀しそうに潤んでいて。
あたしに触れている手も、小さく隠すように震えていて。
哀しくて泣きそうになってしまったけど、頑張ってこらえた。
「先輩が傷つくだろうから…別れようと、思いました。
神様って、意地悪ですよね。
どうして、あたしと先輩を巡り合わせたんでしょうか。
先輩、辛いはずですよね、本当は。
先輩の大事な幼馴染…山口雛乃先輩と同じ名前に、似た顔を持つあたしに好かれて。
先輩は誰よりも優しいから。
あたしに告白された時、思ったんじゃないですか?
同じ名前のあたしに優しく出来ないって。
だから言ったんですよね。
他に好きな男が出来たら、そっちに行って良いって。
同じ名前のあたしを、傷つけてしまわないように…」