君と手を繋ぎたくて








救護室には誰もいなくて。

空いているベッドに、俺はテキトーに腰かけた。




彼女は勝手に薬などはいっている戸棚を開いて、包帯を取りだした。

そして器用に、俺の腕に巻いてくれた。





「…ありがと」

「いえ!
やっとお礼が出来ました」

「お礼?」

「あたし何度も先輩に助けられているでしょう?
それなのにお礼というお礼が出来なくて。
良かったです、こういう形ですがお礼が出来て」

「…別に良いのに、お礼なんて」

「人として、助けられたらお礼をする。
当たり前だと思うんですけど」

「……ふーん」





当たり前、か。

基準がわからないのに。

…面白い子だな、この子は。





「…ねぇ」

「はい?」

「名前は?」

「名前ですか?
山口陽菜乃と申します」





…なんてこった。

俺は思わずそう思ってしまった。




ヤマグチヒナノ。

名前まで一緒だなんて……。







< 184 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop