君と手を繋ぎたくて
救護室には誰もいなくて。
空いているベッドに、俺はテキトーに腰かけた。
彼女は勝手に薬などはいっている戸棚を開いて、包帯を取りだした。
そして器用に、俺の腕に巻いてくれた。
「…ありがと」
「いえ!
やっとお礼が出来ました」
「お礼?」
「あたし何度も先輩に助けられているでしょう?
それなのにお礼というお礼が出来なくて。
良かったです、こういう形ですがお礼が出来て」
「…別に良いのに、お礼なんて」
「人として、助けられたらお礼をする。
当たり前だと思うんですけど」
「……ふーん」
当たり前、か。
基準がわからないのに。
…面白い子だな、この子は。
「…ねぇ」
「はい?」
「名前は?」
「名前ですか?
山口陽菜乃と申します」
…なんてこった。
俺は思わずそう思ってしまった。
ヤマグチヒナノ。
名前まで一緒だなんて……。