君と手を繋ぎたくて








「……本当に陽菜乃は、村木先輩に惚れているよね」



自分のハンカチで、あたしの涙を拭く環奈。

あたしは口元を押さえながら、何度も頷いた。

まるで、東北のお土産の赤い牛のように。

何度も何度も、強く頷いた。





「じゃ、陽菜乃が諦めるまで、村木先輩を好きでいなね」

「ありがと……ッ」




環奈があたしの頭をポンポンと優しく叩いた時、担任がホームルームを終えて、教室を出て行った。

後ろの席で良かったと、凄く思えた。




「陽菜乃。
次の授業は数学だから、教室だよね」

「そうだと思うけど…」




環奈のハンカチで涙を拭きながら、あたしは答える。

涙はもう、止まったみたいだ。

後で顔洗わないと、目が腫れていて先生たちに何か言われるかもな。





「じゃ、あたしハルの所行っても良い?」

「え?」

「陽菜乃も行こうよ!」




あたしの答えも聞かず、環奈はあたしの手を取って走り出す。




「ちょっと待ってよ環奈!」




ハル―――佐竹先輩に会うなら、

村木先輩もいるかもしれないじゃん!




こんな顔で会えないよ!

その上失恋した後なんて!




あたしの必死の抵抗も空しく、環奈は急いで階段を下りて、4階の先輩たちの教室へ向かって行った。

恋する乙女の力には、勝てないとあたしが学んだ瞬間だった。







< 21 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop