君と手を繋ぎたくて
「……本当に陽菜乃は、村木先輩に惚れているよね」
自分のハンカチで、あたしの涙を拭く環奈。
あたしは口元を押さえながら、何度も頷いた。
まるで、東北のお土産の赤い牛のように。
何度も何度も、強く頷いた。
「じゃ、陽菜乃が諦めるまで、村木先輩を好きでいなね」
「ありがと……ッ」
環奈があたしの頭をポンポンと優しく叩いた時、担任がホームルームを終えて、教室を出て行った。
後ろの席で良かったと、凄く思えた。
「陽菜乃。
次の授業は数学だから、教室だよね」
「そうだと思うけど…」
環奈のハンカチで涙を拭きながら、あたしは答える。
涙はもう、止まったみたいだ。
後で顔洗わないと、目が腫れていて先生たちに何か言われるかもな。
「じゃ、あたしハルの所行っても良い?」
「え?」
「陽菜乃も行こうよ!」
あたしの答えも聞かず、環奈はあたしの手を取って走り出す。
「ちょっと待ってよ環奈!」
ハル―――佐竹先輩に会うなら、
村木先輩もいるかもしれないじゃん!
こんな顔で会えないよ!
その上失恋した後なんて!
あたしの必死の抵抗も空しく、環奈は急いで階段を下りて、4階の先輩たちの教室へ向かって行った。
恋する乙女の力には、勝てないとあたしが学んだ瞬間だった。