君と手を繋ぎたくて
あたしが言いきると、先輩はそこで初めて照れたようにはにかんだ。
普段喜怒哀楽を表さない先輩は、笑顔も滅多に見せない。
だから、はにかんだような笑顔は、凄くレアだった。
「じゃ、よろしくねヒナちゃん」
ひ、ヒナちゃん!?
そう呼ばれたの、初めて…。
友達にも家族にも、陽菜乃って呼ばれているから。
初めて呼ばれるあだ名にドキッとしたけど、嬉しかった。
大好きな先輩だけに呼ばれるあだ名だもの。
「よろしくお願いします!先輩!!
…あたしも、優志先輩って呼んでも良いですか?」
「良いよ。
優志って呼び捨てでも良いけど」
「…慣れたら、優志って呼びます。
今はまだ、先輩つけないと…恥ずかしい、です」
「わかった」
何故か優志先輩は、寂しそうな笑みを浮かべた。
「優志先輩……?」
「…慣れたら、呼び捨て…か。
ヒナちゃんが慣れるまで、ヒナちゃんが俺の傍にいるかな?」
あたしがその言葉に驚き固まっていると、優志先輩はそのままパンの封を閉じて、教室へ戻ってしまった。
優志先輩。
あたしは優志先輩の支えになれますか?
今にも泣きそうな、寂しそうな笑みを浮かべたあなたの。