君と手を繋ぎたくて
先輩の体は前を向いているけど、顔は左を向いていた。
先輩の横を通り過ぎていくオジサンが、道の真ん中に突っ立っている先輩を不思議そうに眺めて歩いて行った。
…先輩、道の真ん中に立って、一体何をしているんだろうか?
「それマジー?」などと独り言を言いながら、あたしは先輩へ釘付けになっていた。
……何がマジなんだろう、と思ったけど気にしないことにした。
先輩は左を見つめたまま、微動だにしない。
あたしは先輩の鋭い視線の先を追いかけた。
沢山の、人。
ベンチに座る、カップル。
その手に持っているのは…クレープ。
「……え?」
思わず声を漏らす。
先輩の鋭い視線の先にあるのは、
―――環奈と佐竹先輩が話していた、あのクレープ屋さんだった。
何で?
何で先輩、クレープ屋さんなんて見つめているの?
疑問は、それだけじゃなかった。
先輩の瞳、だ。
怒りにも哀しみにも取れる、色々な感情が入り混じった瞳。
先輩が何を考えているのか、わからなかった。