君と手を繋ぎたくて
「…な、何でもないですよ?」
「……そう、なら良いんだけど」
先輩はそれ以上聞こうとせず、校舎へ向かって歩きだした。
それを見ていた佐竹先輩が、優志先輩の肩を叩いた。
「優志、オレには挨拶なしか?」
朝にも関わらず明るく言った佐竹先輩。
その明るさがあれば、あたしは昨日のことを聞けたのだろうか?
そんなことをふと思っていると。
優志先輩が勢いよく振り向き、佐竹先輩の手をパシッと叩いた。
「……え?ゆう、し?」
「あ…ごめん、おはよう」
「お、オハヨウゴザイマス」
何故か敬語でカタコトに話した佐竹先輩。
優志先輩は苦笑いを浮かべながら、佐竹先輩が触れた肩をさすっていた。
「ごめん。
ちょっと昨日肩怪我して、普通にしていれば何も問題ないんだけど、触れられるとまだ痛むんだ……」
「そう、なのか!
悪かったな知らなくて!」
「俺も言っていなかったから…。
ハルが気にすることないから、気にしないで」
優志先輩は力なく笑うと、「じゃ」と校舎へ向かって行ってしまった。