君と手を繋ぎたくて
「ヒナちゃん…。
別に華子のことは放っておいても良いのに」
「皆で運べば早く終わりますよ!」
「え?皆?
俺も運ぶのか……?」
「あ、いえそういう意味じゃ!
優志先輩は先にご飯を食べていても構いませんよ!」
「ユウシも運ぶに決まっているじゃないの。
何で可愛い後輩ちゃんに持たせようとしちゃ駄目よ?」
「……わかったよ。
俺も持つ、だから早く行くぞ」
優志先輩は渋々と言った感じで立ちあがる。
島田先輩が小さくガッツポーズをして、教室へ辞書を取りに向かう。
「悪いなヒナちゃん。
アイツ、他人を巻きこむのが上手いんだよ」
文句を言いながらも、どこか嬉しそうに笑っている優志先輩。
その姿に、あたしは優志先輩と島田先輩の間には何かあると思ってしまう。
「あの、優志先輩……」
「お待たせー!」
あたしの声を簡単に遮ってしまう、大きな島田先輩の声。
両手には30冊あるという辞書が山積みになっていた。
「30÷3だから、1人10冊ずつね!
じゃ、行きましょう!」
素早く優志先輩とあたしに辞書を10冊ずつ渡した島田先輩は、元気に握った右手を宙につき上げた。
「うるさい」と文句を言う優志先輩だけど、その表情はやっぱりどこか楽しげで。
あたしは自分に芽生えた名前の知らない気持ちを押し込めるように、辞書を胸に抱いた。