君と手を繋ぎたくて
だけど、
あたしが階段から落下するってことだけはわかった。
階段はあと2段上がれば上に着くって位置にあたしは立って演説していたから、落ちる距離はかなり長い。
あたしは驚き、何かを言っている島田先輩たちを、何も感じずに見つめていた。
落ちたら、痛いだろうな。
そんな呑気なことを考えていた。
だから、驚いたんだ。
上に向けて伸ばしていた右手を、誰かに掴まれた時は。
あたしの右手を掴んでいるのが、
―――優志先輩だと知った時も。
優志先輩は、何かを言った。
だけど、何を言ったのか聞き取れなかった。
“先輩、もう1度言ってもらえますか”
そう言ったつもりのあたしの言葉は、空気と化した。
優志先輩と、手を繋いでいる。
それがわかった瞬間、あたしはゆっくりと意識を手放した。
意識を手放す瞬間、あたしの頬に、何か冷たいものが当たった。
だけどそれが何だったのか、あたしはわからなかった。